「文鳥と暮らすひと」第八回は伊藤美代子さんです。インタビューは2016年5月に行われました。
https://twitter.com/WhiteIzumi
初めて文鳥を飼ったのはいつですか?
小学校の一年生です。
それから結婚する21歳まで文鳥はずっといました。
上京されたのはいつですか?
結婚して三ヶ月くらいで東京に出てきて、その時は飼っていた文鳥を置いてきたんですよ。
すごく仲の良かった子が私が結婚する一週間くらい前に亡くなって、あとは手乗りじゃない子が二羽いたんですけど母に預けて置いてきました。
東京に出てしばらくは文鳥が居ない生活をしていたんですね。
そうです。寂しかったです。
オオハシを飼っていたと聞いたことがあるんですけど。
オオハシは東京に七年くらい経ってからかな。その時はもう文鳥は飼っていたんだけど、ヨウムが欲しくなってお店に時々見に行ってたんですよ。
可愛いヨウムがいて自分で飼えるかなと思いながら何度も何度も通っているうちに、別のケースにオオハシが居て主人がすごく気に入って。
オオハシも五回くらい見に行って飼うことになりました。
オオハシって普通に売ってるんですね。
オオハシはお店に居たときからあまり状態が良くなくて足が弱くて。何十万かするんだけど半額くらいの値段になってて、半額だから買ったわけじゃないけどその子しかいなくて。その子が可愛かったので買いました。
オオハシと文鳥は一緒に放鳥してたんですか?
怖いからやってません。大きさが違うので、オオハシの羽が当たったら文鳥がひっくり返ったりしそうなのでしなかったんですけど。オオハシは大きなケージの中に居て、文鳥を放鳥したら普通の感覚でオオハシのケージの上に止まるんですよ。
ケージの中のオオハシの上にも止まって、オオハシがびっくりして食べようとしたんで、その時初めてオオハシが肉食だということが分かって。肉食っていうか雑食?
肉を食べるんですか!フルーツとかを食べるようなイメージでした。
思うよね、トロピカルな感じでほよよーんとしてて。でもけっこうカラスっぽいというか。
鳥の卵とかヒナとかを繁殖期に食べるらしくて。その時はまだ専用のフードがなくてお店から習ったオオハシのご飯は九官鳥の餌と老犬用の羊の肉のカリカリをあげていて、確かに雑食っていうか肉ですよね。
それからはケージの上に布をかけて。
文鳥の仕事
文鳥の仕事を始めたきっかけは?
「アニファ」(※2009年2月号を最後に休刊)という雑誌が一号だけ出た時に、中にマンガがいくつか載っていたので自分も描きたくてマンガを編集部に投稿したんですよ。
その時はまだ季刊誌で一号から二号までに間があって編集さんがライターを探していて連絡があったので行ってみたら、マンガよりも文鳥の話を書いてみないかということになって「文鳥楽園」1ページ分白黒で載せてもらって。
私はマンガが描きたかったんだけどまあそれでもいいかって。好き勝手にやっていいと言われたので。
最初から「文鳥で行きましょう」ということだったんですね。
当時出版社の社長も担当さんも何の動物がウケるかというのは全く分かってなくて、ハムスターとインコと…と、とにかく種類を揃えたいらしくて、文鳥なら飼ってる人も多いから「じゃあ文鳥お願いします」っていう感じで。
ご自身で文鳥好きをアピールされた?
「文鳥帝国」っていう同人誌を作っていたのでその本を編集さんに渡してたんですよ。そっちの方がマンガより面白かったらしくて。
「文鳥帝国」はすごく内容が濃いですもんね。
濃いですね(笑)。ちょっと外に出せないくらい濃くて。おかげさまで何回か増刷しました。
「文鳥楽園」は本当におまかせだったんですよね。
編集部には全く何も言われなくて。何が自分の指針だったかというと、読者さんからのお便りを月二回もらいに行って、
こういうことが求められているのかなと。
文鳥楽園のページだけレイアウトの雰囲気が違いました。レイアウトも最初からおまかせですか?
レイアウトは牛……主人にやってもらって。完全原稿の形で全部作って出すんですよ。
本当は編集さんが誤植とか色々チェックしなきゃいけないじゃないですか。それも全く無くてそのまま出るんで、本になって間違ってるのを見つけると全部自分のせいになる。それがあったので途中から「完全責任編集」って自分で書くようにした(笑)。
途中で携帯で撮った写真を送るコーナーなどができましたが、ああいった企画もご自身の裁量で?
編集部には何も言わないで勝手にどんどんやってました。
読者との交流が多かった印象です。
多かったですね。
締め切りギリギリまで引っ張ってなるたけ新しいネタを入れようと思って。普通だったらもらったネタを本にするまで三ヶ月くらいかかるんだけど、すぐ出せるような感じにして。送ってすぐ載るのが良かったのかなぁ。
バリ島の取材もありましたよね。
ジャワ島とかバリとか書きましたね。でも取材費は出てなくて完全に自費です(笑)。
反響は読んでる方は楽しそうでした。
初めて出した飼育書はアニファブックス「文鳥」ですか?
そうですね。でもあれは名前も載ってないしアニファの本の記事を書いた感覚です。それも結局おまかせでしたが(笑)。
巻頭の品種紹介のところは編集部で撮影してますよね。ショップに撮りに行ったか借りてきたかで私が飼っている文鳥ではなかったのですが、あの本では読者から「文鳥の爪のところに汚れがあるからちゃんとしてあげてよ」とクレームが来たそうです(笑)。
文鳥好き独特の現象ですよね。
本当にのめり込んでるひとはのめり込んでて。今でもそれを考えると本を書くのも怖い時があるけど(笑)。
でもなるべく内容は平均的に書こうかと思ってて、どうしてもマニアックなことを書きたい時は薄い本出そうかなとか。
文鳥の一番最初の品種というのは
最初は桜なのかな。どっちが先かっていうのは分からなくて、白を作るために桜をどんどん掛け合わせたというのが通説らしいです。
名前はいつ付けたか分からないんですよ、白文鳥、桜文鳥っていう。
ホームページ(Japanese Ricebird。現在閉鎖)はいつ頃からされていました?
Macを買ってすぐ始めたから1996年ですね。アニファをやり始めた後になるかな。
あのサイトも掲示板があってファンとの交流がありましたね。
ありましたね。あの頃は他にホームページを持ってる人がいなかったので。みんな質問や疑問をたくさん持ってて、文鳥の本も少なかったので。「今困ってる」という人が掲示板に書き込んでいました。
でも私が忙しかったりすると質問にも答えられなかったりするじゃないですか。そしたら常連さんたちが答えてくれていてありがたいな〜っていう感じでけっこう続いてました。
飼育書を出してからも飼い方についてSNSなどで直接質問をされることがありますが、著者としての胸中は。
掲示板やSNSで答えた場合はその回答を他の人も見るじゃないですか。私はそれは嬉しいんですよ。みんなに情報が行くので。本が売れなくなるかもしれないけどそれはいいんです。
でも困ることがあってメールで来る時があって。メールで質問に答えると十回くらい折返しやり取りしてどうにもならないかったり。だから今はメールでは受け付けていませんということにしてるんだけど、ちゃんと答えを書いてもその人しか読まないし他の人にも得はないし私にも得がない感じでそれが一番困ります。
それだったら沢山の人が見てるところで相談してもらってみんなで共有した方がいいなと思って。
でも本当にそういう場を作って毎日答えてる状況になったら困る(笑)。
文鳥はパートナー
パートナー的な一羽を作り始めたのはラーミアさんが最初ですか?
そうです。私が鳥と思ってないくらいに鳥じゃなかったんですよ。
亡くなった後も後々ずっと引きずってて、一羽だけかわいい男の子、鳥っぽくない、本当に自分と同等の感じの子をそばに置きたいなと思って。
むぅちゃんはどうですか?
むぅちゃんもそんな子だったんだけど、他の子に行って今独身になってるんだけどもう元には戻らないですね。
いなくなった彼女の方に気持ちが行ってる。
もう、悲しいですね(笑)。大事に大事に育てたのに全部ことごとく振られていく(笑)。
ラーミアさんはそんなことなかったんですね。
人しか見てない子だったから。全然鳥には興味がなくて。
ヒナが来るとラーミアのそばに行ってちょっかい出すとか様子見るとか、この人がここで一番偉そうだから挨拶しておこうとか寄って来るんですけど、ラーミアは全然興味がなかったので。
ちゃんと文鳥の社会ができているんですね。
ありますね、若い子は長老を見つけて挨拶に行くとか。
一番人に慣れている感じの鳥を見つけて「どうやって生きていくのかな」みたいな感じで見ていると思います。
今一番若い文鳥は?
女の子でくーちゃんとすーちゃんっていうシナモンとシルバーです。一歳ちょい前くらいです。
ほぼ毎年文鳥が増えているような気がするのですが。
毎年十歳くらいの子からいなくなっていくんでその分新しいヒナを。
年に一回ヒナに挿し餌をしないと気持ちが落ち着かない(笑)。変な母性があって子育ては年に一回(笑)。
文鳥まつりのこと
文鳥まつり共同主催の斉藤たまきさんと尾上羽夢さんはいつ頃からのお付き合いですか。
尾上さんは文鳥まつりを始めた時に知り合った人で、イベントしようとなった時にたまきさんが紹介してくれたので、それまでは全然知らなかったです。
たまきさんはオールバード(※遊々社時代)にお互い時々寄稿していたのでそれで知り合って。
文鳥まつりを始めたきっかけは?
尾上さんが「いろとりどり」というイベントを一回だけやって、その次に何のイベントをしようかと探していた時に「文鳥の日」を私が作ったので、文鳥オンリーでやればいいんじゃないかというのをたまきさんと話したらしくって。で、その話が私のところへ来て。だから私がまつりをしようと思ったわけじゃないんです。
「文鳥のまつり」は最初はこじんまりしてましたがイベント自体がだんだん大きくなってきました。その辺でご苦労などは?
ただただお客さんの対応を考えるだけ。作家さんたちはみんな真面目だからイベント内容は心配してなかったんだけど、お客さんからのクレームをなんとかすることを考えてます。
スタッフはほぼ作家さんですね。
作家さんが手伝ってくれるからありがたいですね。お手伝いの人がいなくなったらたぶんイベントができないです。
主催がヨボなので若いお手伝いさん大募集です。
文鳥まつりの主催をやっていて、文鳥ファンの愛の重さに折れそうになることはないですか?
無いです。文鳥ファンの愛の重さは自分たちの考えていることと同じだからプレッシャーにもならないし励みになる。
でも年に一回だからやれてると思う。
作家さんはお客さんが望むものを作らいないといけないとかあって難しいですよね。「これで満足してもらえるだろうな」と思っても「違う」って言われたら凹むと思うんで。
文鳥好きな人は文鳥との付き合い方が独特ですよね。
一人ひとりちがうとは思うけど、目の前の文鳥が自分のことを分かってくれているのが一番なのかな。
文鳥に愚痴を聞いてもらう人が多いですよね。
反応がクールだと聞いてもらった感が無いんですけど、わりと文鳥って察するんで。聞いてくれている感じに見えるので。
特にメスの文鳥は飼い主の髪の毛を繕ってあげたりとか。オスは何も考えずにぴょんぴょん飛んでるんだけど、女の子は飼い主にピッタリくっついて。
歳をとったメス文鳥の分かってくれる感はすごいですね。
そうだと思う、オスとメスで全然違うところがまた人間っぽくってね。オスは寄って来てくれるけど本当に困った時は頼りにならないかもしれない。
一言では言いづらいかと思いますが文鳥の魅力とは?
すごい難しいね。文鳥の魅力……共感?
共感が一番うれしいしびっくりすることだし、多分同じものを見て驚いたなっていうのが分かるし同じ気持ちでいるのが分かる。同じ曲を聴いて嬉しそうにさえずってるとか。
でも文鳥だけじゃないと思う。飼われいているは鳥みんなそれぞれそうだと思うんだけど、私は文鳥しか飼ってないから……。
二〜三年飼っているとお互い気持ちが通じ合ってる感じがありますね。
「何かやって」って言ったらやるわけじゃないんだけど、気持ちが通じてるしお互いの状況が分かってるし、そんな感じありますよね。
<質疑応答コーナー>
インタビューに同席していた人たちからの質問です。
文鳥ファンの人って熱いじゃないですか。あれはやっぱり文鳥という生き物は他の鳥とは違うのかなと思って。飼ってないから分からないんですよね。
飼って!
ずっとみんなにそう言われてて、でも飼ってと答えるしかなくて。
大昔から、「アニファ」っていう本を書いてた時からそうなんだけど飼わないと分からないっていう。読者さんのお手紙も「飼って初めて分かりました」っていう。
こんな小さいのに色々詰まってる、でもそれをなかなか理解してもらえないっていう。
やっぱり犬とか猫とか大きめのインコとかは賢いっていうのは分かってるんだけど、この小さい鳥が……っていうのはなかなか理解してもらえなくてもどかしいっていうのがみんな胸の中にあって、それを話して分かってもらえるのがすごくうれしいみたいで。
わざわざ遠くから文鳥まつりに来て、お客さん同士で話すのが楽しいみたい。買い物だけじゃないんですよね。仲間に会いに来るみたいな。
文鳥ファンは多いので弥富文鳥は復活しないですかね。弥富自体は復活しなくても文鳥ランドみたいなものがあったら。
あったら喜ぶでしょうね。そういう場所に行って文鳥に浸りたいっていうか。
満たされていればそういう空間に集まって熱狂的になることもないと思うんですけど。
もし生まれ変われるものを選択できるとしたら、文鳥になるか、人間か、別のものになりますか?
また人に生まれて文鳥を飼う(笑)。一瞬くらいなら文鳥になってもいいと思うんだけど、また一生を送るのであればまた人間になって違う飼い方とかしてみたい。
今は昔ながらの鳥かごで飼ってるけど、文鳥って賢くて自分でも考えるし鳥かごで飼うんじゃなくてもいいんじゃないかという気がして。いろんな工夫をしてみたい。
人生が文鳥一色ですね。
本当はいろんな鳥を飼いたかったんです。いっときセイキチョウとかオオハシもそうだけど飼ったことがあるんですけど、それをやると自分がやることが散らかってしまうなということが分かったので文鳥だけにしようと思って。
自分が文鳥だったら自分に飼われたいと思いますか?
それは嫌だね(笑)。
今後文鳥関連の仕事でやってみたいことはありますか?
多分本を書くとかそういうことになるんだろうけど、今は飼う方法とか簡単に調べられるじゃないですか。だからそういうことじゃないことをやりたいなと思って。
学者とかじゃないから研究発表はできないけどちょっと研究したいな。行動についてとか。
それは多分発表すると本当の先生たちに怒られるので薄い本に書こうかなって(笑)。それがみんなの役に立てばいいかな。
お金にはならないと思うんだけどやってみたい。
最後に文鳥好きに向けてメッセージを一言。
文鳥はいつも飼い主のことを見ていて、目で追ったり小さく鳴いたりいっぱいサインを送ってくれてるんで今よりももう少し気づいてあげたらすごく喜ぶんじゃないかと思います。文鳥はギャーギャー言わないしすごく静かなんで放っておかれる時間が長いんですよね。構われないと言うか。
おとなしくしてるけど本当は遊びたいと思っているので、文鳥が送っているサインを見逃さないで上手に付き合ってもらえるとうれしいです。
(2016年5月にインタビュー)