「文鳥と暮らすひと」第七回はちょし(ただの文鳥)さんです。インタビューは2016年1月に行われました。
ちょし(ただの文鳥)さんプロフィール
野鳥系データ取りまとめ屋。オルガニックな食材で身体に良さげなご飯を作るのが好き。
文鳥を飼い始めたのはいつからですか?
2010年の5月にたまたま寄ったペットショップで桜文鳥のヒナが可愛すぎて、全然飼う予定もなかったんですけど連れて帰ってしまいました。
それまでに鳥は飼ったことはなかったんですか?
なかったです。夫婦それぞれ動物好きだったので犬を飼おうという計画はあったんですけど、その前に夫がバードウォッチングを趣味にし始めて鳥をよく見るようになるまでは鳥はそんなに興味がなくて。
子どもの頃にセキセイを預かったことがあるくらいで飼ってはいないです。
ショップは夫婦ふたりで行って小鳥のコーナーで「鳥かわいいね」とか言いながら見ていたら、桜文鳥のヒナが可愛すぎて。
一目惚れだったんですね。
うん、一目惚れでした。桜文鳥のヒナがあんなに可愛いとは思ってなくて。やたら可愛かった。
その当時住んでたマンションは小動物でもペット不可だったので、夏に引っ越しをしました。
文鳥第一主義
文鳥のために!
文鳥のために引越しをすることになりました。
私は「鳴き声もそんなに大きくないし大丈夫じゃない?」と言ってたんですけど「何かあった時に責任を取らないといけないから、ちゃんとしたところへ引越したい」という夫の強い文鳥第一主義の下、引越しをしました。
ちょうどその時は私の母ががんで入院していて、実家の佐賀へと行ったり来たりしていた最中で、「え~今引越し?」と思ったんだけど、文鳥第一主義には逆らえず(笑)。
もし何かあって「処分してください」と言われたら、そんなことはしたくないということで。「犬飼ってるひともいたし……」とかは思ったんですけど。文鳥第一主義なんで。
しばらくは一羽飼いだったんですか?
一年間は一羽飼いで、まめちゃんは男の子だったからお嫁さんが欲しいなと。
最初のうちはまめさんのお世話は私がしていたので私にベタベタだったんですけど、私が横浜と佐賀を行ったり来たりしている間に夫の鳥になってしまったので、今度は私だけの鳥が欲しいと思って。白文鳥がどうしても飼いたいと。
ということで白文鳥の女の子をお迎えしようかなと一年後にあずきさんをお迎えしました。
性別が分かるということはあずきさんはある程度育っていた?
いえ、ヒナから育てたいっていう思いはあって。9月の初めか中頃だったかな工藤優鳥園(2020年閉店)へ行きました。あそこならいつでもヒナがいるっていう話を聞いたので。
女の子っぽいヒナは1羽しかいなくて、でも明らかに病気を持ってそうな弱っちい感じの子だったんだけど、白のヒナでメスっぽい子はその子しかいなかったので……。スケジュール的にその時期しか挿し餌するタイミングが取れなかったので、引き取ったら案の定コクシジウムがいて。
じゃあしばらく病院通いですね。
そう、でもその時に獣医さんが「ちゃんと治療してもらえてよかった」みたいなことを言ってくれたので。
最初は手間がかかったけどすっかり健康体になりました。
ベタ慣れになりました?
ベタベタになりました。で、結局あずきちゃんは私と結婚してしまったので(笑)当初の目論見とは違って、まめさんとラブラブベタベタな文鳥カップルを目指していたんだけどそれは叶わなかったです。
手乗り文鳥の難しいところですよね。
家の中で同じような姿形をしていて同じ遺伝子を持っている者同士だから何もしなくても同種同士で仲良くなるかなと思ってたんですけど、違うんだなぁと。
シーズンになるとまめさんも求愛ダンスを踊ったりとか、いい雰囲気になりかけたことは何回もあるんだけど最後まで至らず。
まめさんはあずきさんを気に入ってるんですか?
騒々しいので苦手みたいです。
騒々しい(笑)。求愛してるのに(笑)。
まめさんの場合はあずきさんに対して求愛してるのか、それとも単純なアピールの一環としてやってるのかはよく分からないです。部屋の中にペアの相手……一番慣れてるのは夫の方だと思うんですけど、彼に対して歌ってるのかというのも分からないです。
最近まめさんは衰えてきたので旦那の手の中で握られるようになってきたんですけど、元気な頃は私しか握らせなかったです。
握らせるのも背中を触らせるのも私だけでした。
あずきさんの方はお二人とも触れる?
触れるけど朝ケージを開けると一目散に私のところに飛んできてずっと私のところにいます。
爪を切ったりとかは夫がやってくれるので握ったりはしてました。
最近は私のところで散々遊んで彼のところに行ってうんちをするという(笑)。うんちしたらまた私のところに戻ってきます。それで夫がちょっと傷ついてます。
文鳥のイメージは最初に思っていたのと飼い始めてからはだいぶ違いましたか?
かなり違う……。まめさんの後にあずきさんをお迎えして、個体差がこんなにあるとは思わなかった。それぞれ性格がはっきりしてるとか、能力が全然違うとかは初めて知りました。
私が子どもの頃は鳥を飼うというとセキセイインコか文鳥かカナリアかという世代だったので、文鳥は飼いやすいという刷り込みが。病気にもなりにくいし丈夫だし、慣れると手乗りになってかわいいよみたいな基本知識があって。それがペットショップへ行って文鳥を選んだ理由の一つなんだけど。
まめさんは特に賢い子だったので一人遊びをしたりとか、朝「起きた?」といって私達の様子を見に来るとか、夜「明るい」といって鈴を鳴らして文句を言われたりとか、あと敷紙をつついてわざわざガサガサ音を立てて「起きろ」みたいな意思表示をするとは思ってなかったです。
あと鳥臭くないのもびっくりしました。子どもの頃セキセイインコを預かってたりしたので「鳥は鳥臭い」イメージがあったけど、美味しい匂いがする(笑)。まめさんが卵と小麦粉とが混じった香りで甘食みたいだったので、こんな美味しそうな匂いがするんだとびっくり。
あずきさんは日によって違うけど基本メープルっぽい、で体調が悪いと臭い。豆苗が傷んだ時のような青臭い匂いが混じる時は体調が悪い。
水浴びがまめさんは神経質なタイプなのでしっかり浴びて羽繕いもしっかりするんですけど、あずきさんは無頓着なので適当に浴びて羽繕いも適当なので半乾きの時が多かったです。
文鳥ワックス(尾脂腺から出る油)をきちんと彼女は塗らないのでバードバスに入ってもすぐずぶ濡れに。
まめさんは本当に神経質なのでケージの中でも決まった場所でうんちをして、決まった場所でご飯を食べてなので敷紙とかもきれいで同じところしか汚れない。あずきさんは無頓着なので敷紙はすごく汚い……。
正反対ですね。
まめさんだけ飼ってたらどの文鳥も神経質できれい好きで賢いと思ってたと思うんですけど、天真爛漫なあずきちゃんが来て、(性格がかなり)違うのねって。
あずきさんの一途さっていうのは、他の方の文鳥も見ていてメス文鳥特有なのかもしれないと。
なんとなくですが雌雄で基本的な性格が違うような気がします。オスはあまり何も考えてないような(笑)。
あずきさんがとにかく私の姿が見えてないと気になるらしくて、餌を一口ついばんだらとまり木に行って私がいるのを確認して食べる。で、また戻って一口ついばんで、餌箱に顔を突っ込んでいる間に消えてないか確認します。そんな食べ方をするので全部殻が周りに散らばってます。
まったく性格の違う二羽が家に居て面白いです。
生活は文鳥が中心ですか?
今は朝起きるのが遅めになったんですけど、文鳥を飼い始めてからは文鳥のために早起きするようになって。文鳥と一時間遊んでから夫は会社に行くというパターンが身に付いて、少しは健康に寄与しているのではないかと。
夕方は私が文鳥と遊ぶことになっているから、遊ぶ時間をちゃんと取れるように仕事の流れを調整しています。
基本的に七時には寝かしつけるので、夕方六時から七時の間遊んでケージに仕舞う。それに合わせて私も「五時までには家に帰らないと」とか。
七時までに帰れないことが分かっている時は出かける前に寝室の方へ移動しておくんですけど、そうでない時は「遅くなってごめんね〜」みたいな感じで帰って、文鳥に怒られて、「すいません」って言って寝かしつける。文鳥第一主義(笑)。
文鳥はよく怒りますよね。
鳥から怒られるんだなと思いました(笑)。
朝水を取り替えるのにケージに手を入れて怒られ、豆苗を替えても怒られ、ブランコの位置が気に入らないと言って怒られ、ひたすら怒られ……。替えなきゃ替えないで怒るでしょ。
ケージ内は縄張りという意識があるんですかね。
でも手を入れてほしくて怒ることもあって。「かまって」と言って怒られます。
怒られてもかわいいだけなんですけどね。きゃるきゃる言ってるのを見てもかわいいね〜と。
まめさんとあずきさんのヒナは諦めた?
群れの中の構成員としては認めていて片方が居ないと心配そうにしてるんですけど、ペアにはならない。
文鳥のオスってかなり忍耐強くないともてないような気がします。
メスが決めるって感じなんですかね。
何回かあずきさんの上にまめさんが乗っかることがあったんですけど、まめさんうまく乗れてなくて。サーフィンみたいに横乗りしかしない。で、上に乗ってグラグラしてる。「まめさん違う、そうじゃない」って傍で見てて思うんですけど自分は鳥じゃないので教えられず……。普通は本能でできるんでしょうけど。
もう何羽か一緒に飼ってて群れで飼ってると他の文鳥がしていることを目で見て覚えるのかな。
歌も聴いて覚えたりしますからね。
まめさん一羽だけでヒナでお迎えして飼い始めた時は水浴びなんかも、外付けのバードバス使ってたんですけど、あれも怖がって何をするものか分からないから、人が手でバチャバチャやって促してやっと入るようになったんです。
あずきさんはまめさんが水浴びしてるのを横目で見てるから最初から勝手に水浴びしてたし。
飛んだりするのもあずきさんは脚弱でコクシジウム持ちで弱かったけど、飛び始めたのも早いし飛ぶのも上手。まめさんが飛んでるのを見てるせいもあるのかな。
文鳥の感情表現
文鳥の脳はすごく小さいのにどこにこんなに豊かな感情があるのか本当に不思議。
脳内メーカーの文鳥版があったら真ん中は絶対「怒」ですよね。
野鳥観察は今も続けているんですか?
行ってます。外では野鳥を愛でて家では文鳥を愛でる。
ただ遠出がしにくいです。一泊ならいいけど二泊になると文鳥を預けないといけないので。
これからうちも老文鳥になっていくから一泊でも心配になるかな。
うちの文鳥は水入れにフンをしちゃうんですけど、そういう困ったことはないですか?
あ〜、それは無いなぁ。あ、でも餌入れの中にフンをすることがあります。
困ったことはあまりしないんですが、野菜を豆苗しか食べないのは困る。
あずきさんは小松菜も食べるんですけどまめさんが絶対豆苗じゃないと食べなくて、豆苗が買えない時期があって三日間くらい小松菜を入れてたことがあったんですけど、三日目にやっと渋々食べるみたいな。
同じ豆苗でもメーカーにこだわったりしますよね。
あります。村上農園のじゃないと駄目だとか。サラダコスモとか他のだと食いつきが違う。
慣れた味じゃないと駄目なのかな。
文鳥に味覚があるのが衝撃でした。餌も好きな餌からついばんで選り好みするし、真っ先にカナリーシードから食べる。
文鳥も辛いのは平気なんですかね?
平気です。トウガラシは鳥が好んで食べるように辛くなったんです。
ネズミとかモグラとかは辛いと食べないんですけど、鳥は辛いの平気なので鳥に食べてもらって遠くまで種を運んでもらうんです。
トウガラシは鳥が辛いのが平気って知ってたんですね(笑)。
そうなんです。そっちに適化したみたいですね。
あと新しい餌が好きですね。ボレー粉なんかも新しくボレー粉入れに入れたのじゃないと嫌だみたいな。保存状態そんなに変わらない気がするんですけど。
ちょっと湿気てるとか分かるんですかね。
朝一に入れ替えたご飯とかはとても美味しそうに食べますよね。
文鳥とバードウォッチング
文鳥の好きな仕草は
頭を掻く時に口が開いちゃうところですかね。どうしても口が開いちゃうのが可愛い。
あとあずきさん限定なんですけど威嚇する時に舌をベロベロするのが可愛くて。まめさんは口を開けて「ア〜〜」っとするだけなんですけどあずきさんはそこに舌が加わる。
一生懸命威嚇してるんだけどただただ可愛い。
文鳥を飼い始めて鳥のいろんな仕草とか顔の表情がよく分かるようになったから、野鳥を見ていても表情が読み取りやすくなりました。
カモとかフィンチじゃない仔達でも共通の仕草があって、鳥の生態への理解が深まったというか、バードウォッチングがより楽しくなりました。
野鳥観察が趣味で鳥を飼っている人はけっこう多い?
どうだろう……。他のバードウォッチャーの人とあまり交流がないので。鳥を飼っているというのはあまり聞かないかもしれない。
バードウォッチャーも色んなタイプに分かれます。観察専門の人と撮影するタイプと絵を描く人…色々分かれていて。観察でも猛禽類が好きとか身近な小鳥が好き、海辺の鳥が好きな人とかフクロウを見に行くとか色々分かれます。
傷ついた野鳥を保護して離せなくなったから飼ってるという人はいるかもしれないけど、それはまた別のジャンルですよね。
文鳥を飼って良かったことは
いっぱいありますね。家族が増えてうれしいとか。
一心に自分に愛情を注いでくれるとか、群れというかお互いに気にかけたりかけられたりする愛らしい存在……。一緒にいるとすごく楽しい、そんな感じですかね。
生活のパートナーとして毎日かわいい姿を見せてくれて嬉しいです。
あと文鳥のおかげで色んな人と知り合いになりました。
(2016年1月にインタビュー)